その物件はまるでウナギの寝床、じつに長細くとてもマイホームを建てられるような土地ではなかったらしい。しかも、長い側面に沿って鉄道が走っているから、仮に住宅を建てたら、どの部屋にいても電車の音がガタゴト響くことになる。しかし、当の不動産屋はお客さんが目の前でシラヶた顔をしていても、一向に動じた様子もなく、「お気にめしませんか。もう少し狭くなりますが、ほかにもいい物件がありますよ」と別の物件の話をはじめたという。こんなふうに、不動産屋にしてみれば、オトリはあくまでオトリ、こんな物件を買うお客さんがいるなんてはじめから思っていないのだ。だから、オトリ物件にお客さんを案内する不動産屋は、まだ真面目なほうかもしれない。広告を見て電話してきた客がいても、「ああ、あれは売れたばかりなんですよ。もっと、いい物件がありますから、一度ごらんになりませんか」と決まり文句をいうほうが普通なのだ.まき餌に寄ってくる魚たちlオトリ広告に釣られるお客さんをそんなふうに表現したら、叱られるだろうか。また、あたかも個人の買い主がいるような広告を出す場合もある。「至急求む!3LDKのマンション。二四○○万円以内で」というような文句で書かれているが、たいていは相場より高い価格表示である。その広告を見た人は、「こんな値段で売れるんだったら、買い替えてみようか」などという気持ちになり、うっかり電話してしまうのである。しかし、実際に広告を出しているのは不動産屋であって、買いたい人などいない。